野口健のインスタグラム(noguchiken8848) - 9月12日 03時39分
マナスルに向けて(後編)
年々、マナスルの状況は厳しくなっている中で、シェルパ達も雪崩の恐ろしさを全身に浴びている。特に昨年の秋のシーズンが酷かったそうだ。
2日ほどしか晴れず雪崩の巣だったと。優秀だった複数のシェルパ達かマナスルで流され犠牲となった。「今年も誰かがやられる」とポツリと小さな声が背後から聞こえた。
エベレスト街道の村々で泊まるロッジの主人に「ケン、今度はどこに登るんだ」に「この後、すぐにマナスルに向かう」と返事すると、まるで「チクタク、チクタク」と時計の音が部屋全体を包み込むような沈黙の時を迎える。
特に若い時にクライミングシェルパをやっていた主人なら尚更にその「チクタク、チクタク」が長くなる。
ゴーキョの定宿の主人は「チクタク、チクタク」の後に言葉を選びながら静かにとても丁寧に「ケン、分かっていると思うけれど天候が悪ければ早く降りることだよ。僕は20年前にフランス隊のシェルパとしてマナスルに行ったけれどキャンプ2は雪に埋まり見つからない。キャンプ2にたどり着くのが精一杯だった。下山中に雪崩に流されて腰の骨と肋骨を何本も折った。だから今でも腰がよくない。マナスルの神様は怖いんだよ」と諭すように話してくれた。
始めて会ったのはちょうど20年前。その頃にマナスルで遭難していたとは知らなかった。そして、確かに姿勢が今でもいつも傾いている。マナスルの後遺症だったのだ。始めて知らされた事実。
過去3回のマナスルの経験から苦手意識を抱いているのかもしれない。時に雪の多い春のマナスルのイメージが強すぎるのかもしれない。
マナスルという存在に向き合う度にまるで冷たく濡れた刃の先端が頸動脈あたりをまるでコンパスが円を描くようにこねくり回してくる。
また、日本での平和な日常生活の中に於いても、いつも喉の奥に鯛の骨が刺さっているかのような。もう、マナスルはトラウマなのかもしれない。
ただ、なんとか、乗り越えたい。そしてマナスルに「。」を付けマナスルから解放されたい。
エベレスト街道のトレーニングを終えたらカトマンズで五日間、肉体を休め、そしてヘリでマナスルのベースキャンプ入り。
マナスルが今どのような状況なのか分からない。ベースキャンプ入りしてから戦略を練る事になる。何パターンか頭の中でイメージをしながら、最後は現場で「えい!」と決断しなければならない。
もう既にヒリヒリしている。この感覚が冒険の最大の醍醐味。
今回のマナスルは日本を発つ前から流れが今ひとつ良くなかった。エベレスト街道のこの3週間は内容がとてもよかった。緑豊かでとても静かな時が流れていた。なんとも心地よい長閑な「気」が流れていた。
今一つピンときていなかった流れを少しこちら側に引き寄せた気もする。日本を早めに脱出したのは正解だった。
しかし、カトマンズに戻ってからは…日本から送った荷物が税関職員のストライキという意味不明な理由でずっと放置され…。どのような手続きをすれば荷物を引き取れるのかも提示されず…。ズルズルと。かなり振り回されましたが、昨日、色々な人の助けからやっと荷物をゲット。
さて、後はマナスル。やれる最大限の事はしたい。後は成るようになるだろうし、また成るようにしかならない。残り数日間、カトマンズで休みながら集中したい。
9月11日 カトマンズにて
#野口健
#マナスル
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2023/9/12